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きっと嬉しそうに笑って迎え入れてくれる、なんて自惚れてた能天気な自分が情けなくなる。
「これでわかった?」
霧生さんはふぅと一つため息をつくと手にしていたクリップボードをデスクに置いた。
「すみません、俺、」
霧生さんに会いたいばっかりに、という言葉は霧生さんの発した言葉にかき消されてしまった。
「そんなに甘い物が食べたいなら、これで何か買うといい」
財布から取り出した一万円札を差し出され、俺はカッとなってその手を払い落とした。
「馬鹿にしないでください! いくら貧乏だからってそこまで落ちぶれちゃいません!」
キッと睨み付けるが、あんなにいつも俺を見ていた瞳が今はこっちを見ようともしない。俺の中で何かがすぅっと冷めていく。あんな関係を結んだ人間がいきなり職場に訪ねて来たりしたら困惑してしまって当然だろう。だけど、それだけではない、俺を突き放すような拒絶するような何かを霧生さんから感じた。
「ご迷惑お掛けしてすみませんでした。もうここには来ませんから」
俺はディパックを引っ掴み乱暴にカーテンを開け問診コーナーから出るとそのまま献血ルームを後にした。ボランティアの女の子が何か言ってるが構うもんか。エレベーターを待つのももどかしくて非常階段を駆け下りる。
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