第8章

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「ヴァンパイアと契約を交わした人間はヴァンパイアの能力の一部を恩恵として受けることができるんだ。と言ってもほんの少し、自然治癒力があがったり、身体能力があがったりするだけなんだけどね。でも小さな傷ならすぐに治るし風邪にもかかりにくい。あと記憶力や思考力も上がるから試験の時なんかも便利かもしれないよ。普通に生活する上では全く支障はないし、こうやって今回みたいに検査でもしない限り誰にもわからない。それに何もデメリットはないから安心して」  霧生さんは何かのマニュアルでも読み上げるかのように淡々と語っている。  確かに最近、疲れにくくなったし勉強していて暗記の必要があるものもすんなりと頭に入った。霧生さんのことで少しはダメージ食らってもいいはずなのに俺って意外と図太いのかな、なんて思ったりもした。いざ自分の体がそんな風に変化してしまったと知っても恐ろしいと感じるどころか、霧生さんに少しだけ近づいたのは誇らしいとさえ思える。  だけど、だからと言って……。 「なんで、なんで俺に教えてくれなかったんですか? ……俺がいつそんなの頼みましたか!」 「大学の勉強とか家事とかバイトとかいつも忙しそうにしてたから、少しでも助けになればと思ったんだ。いろいろ俺のわがままに付き合せたしね。その埋め合わせ、とでも思ってくれたらいい」  目の前が真っ暗になった気がした。  俺の事が好きだから、俺の体を欲しいと思ってくれてえっちした訳じゃないんだ――。  俺がいつもあくせく働いてるから可哀想になって……? 単なる人助けのつもり? 憐れみ? 施し?  わずかな期待まで粉微塵に砕かれてしまった。     
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