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どれくらいの時間そうしていただろう。
大槻さんは深い溜め息と共に固く閉じていた瞼を開き、ゆっくりと顔を上げた。
何もできずにただ突っ立っている俺に気付くと、にっこり微笑む。霧生さんとタイプは違うがこの人もかなりの美形だ。
「大丈夫。トーパーに入っただけだから」
「……トーパー?」
「うん、冬眠状態っていうのかな。深い眠りに落ちることで身体の治癒能力をあげるんだ。これ位の怪我なら、何日か眠ればすっかり元通りになってると思うよ」
ほっとすると同時に疑問が湧きあがる。そんな事がわかってしまうということはこの人も。
「あの、あなたも、その……」
「そう。ヴァンパイア」
あまりにあっけなく肯定する大槻さんに驚きつつも、「やはり」と思う。
やはり先ほどのあの濃密な空気はそのせいだったのだ。俺みたいな普通の人間にはわからない何か特別な事がきっと行われていたのだろう。
あまりにも普通すぎて意識していなかったけど、この人達は自分とは別の存在なのだ。脈だって呼吸だって、流れる血の色だって同じだというのに。自分と霧生さんの間にさらに隔たりを感じる。自分との差をまざまざと見せ付けられたようで、そんなどうしようもないことにまで嫉妬してしまう。
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