第9章

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「霧生は、オールマイティに何でも器用にこなしてしまうし表には何も出さないからわかりずらいけど、本当はいろんな悩みを抱えていると思うんだ」  そう言われて、あの日海の先のどこか遠くをみつめていた霧生さんの静かな瞳を思い出した。 「僕はそれがいつか霧生を壊してしまうんじゃないかと危惧して、パートナーを持つことを勧めていたんだけど上手く躱されてばかりでね。そんな霧生が、頑なに一人でいることを貫いてきた霧生が、君をパートナーに選んだんだ。君の事をそれだけ特別な存在だと思っているのは間違いないと思う。君に余計なプレッシャーをかけるようで申し訳ないけど、霧生のこと、支えてやってほしい。彼の苦悩を少しでも和らげてあげてほしいんだ。君たち二人の間にどんな事情があったのかは知らないけど、どうか霧生を見捨てずに傍にいてやって」  大槻さんは深々と頭を下げたが、俺は何も言うことができなかった。  その後、大槻さんは「暇な時でいいから様子を見に来てやってほしい」と言い残し、合鍵を置いて帰っていった。  霧生さんは当分静かに寝ているだけだろうし、俺がここにいてもできることはないので、ずっと傍についていたい気持ちを抑えてとりあえず家に戻ることにした。
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