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第10章
まんじりともせず朝を迎え、寝不足のままぼんやりと朝食の支度をしていると、双子がおそるおそるといった感じで声を掛けてきた。
「兄ちゃん、俺たちにも何か手伝えることない?」
最近ずっと元気のない俺を心配してくれているのはわかっているので無理に笑顔を作ってみせる。こんな小さい子供にまで気を遣わせてしまう自分がちょっと情けない。もっと強くならなきゃな。
「大丈夫。兄ちゃん一人でできるから、お前らは顔洗ってきな」
「うん、わかった……」
弟の髪をくしゃくしゃと撫でてやると不思議な既視感が襲った。
なんだろう。何かがひっかかる。頭の中にもやもやとしたものが。思い出せそうで思い出せない。
――大丈夫。君は何も心配しなくていい。
これは、事故直後に霧生さんが言った言葉だ。そう言われて頭を撫でられて俺は随分と平静を取り戻したんだけど、それよりもっと以前にも同じようなことがあった気がする。
「あ!」
パチンと頭の中で水風船が弾けたように記憶が溢れ出した。
あの時はパニくっててこの既視感がなんなのかゆっくり考える余裕もなかったけど。
俺は握り締めていたおたまを放り出し、慌てて押入れから埃をかぶった昔のアルバムを引っ張り出した。逸る気持ちを抑えページを捲る。
「やっぱり……!」
親父が入院している時に病室で撮った写真。
そこには、今より少し若い親父と小学生の俺、それに白衣を身に着けた霧生さんが今と全く変わらない姿で写っていた。
俺は呆然とした。
どうして自分の将来を決定づけるような人の顔を忘れてしまっていたのか。
親父が運び込まれた手術室の前で俺を元気付けてくれた医師。
あれは、霧生さんだったんだ――!
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