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第12章
快感の渦が過ぎ去った後のさざなみに身を任せ、俺はとても満ちたりた気分だった。
シーツにくるまってまどろむように裸の身体で抱き合ってお互いのぬくもりを感じあい、たまに引き寄せあうように軽く唇をあわせたり。
窓の外では小雨が降っているのか、ぱたんぱたんと雫の撥ねる音が軽やかにリズムを刻んでいる。それさえも今は温かく心地よく感じるのだから不思議だ。事故のあったあの日もこんな風に雨が降っていたけど、あの時はとても冷たくて心の底まで凍えるようだったのに。
「そういえば!」
あの日のことを振り返っているうちに、俺は、唐突にある事を思い出し跳ね起きた。
「どうかした?」
霧生さんも俺の慌てっぷりにつられて身を起こす。
「霧生さん、親父の命の恩人だってこと隠してましたよね」
霧生さんは一瞬目を瞠ったが、すぐに諦めたように溜め息をついた。
「……いつから気づいてたの?」
やはり、自分が俺の憧れの医者だと気づいてて黙ってたんだ。もしかしたら憶えていないのかも、と思っていたけど今の返答で決まりだ。
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