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第4章
そして一週間後、俺はまた駅のロータリーに来ていた。前回の帰り際に、次に会う日を約束していたのだ。
霧生さんは相変わらずおしゃれでかっこよくて、人目を引いている。道行く女子高生やOLのお姉さま方もちらちらと視線を送っているのが傍から見てもよくわかった。
霧生さんに恥をかかせては悪いと、俺も激安ディスカウントショップのコーディネートの中から少しでもマシなものを選んで着てきたつもりだったが、結局は目くそ鼻くそ。大して代わり映えしない野暮ったい出で立ちだ。横に並ぶのが少し申し訳なくなってしまう。
車に乗り込むと、霧生さんは後ろの座席に置いてあった紙袋を手に取り「はい、プレゼント」と俺の膝の上にぽすんと置いた。
中には携帯電話の写真が印刷された箱と分厚いマニュアルらしき本が入っている。
「え、これって?」
「引き落としは俺の口座を指定してあるから、通話料は気にせず使っていいよ」
まるで飴玉一個を渡すくらいの気軽さで、そんな事を言い出した霧生さんに俺は目を剥いた。
「気にせずって、そんなの受け取れませんよ! ほんの数回会って一緒にメシ食っただけの相手にほいほいと気軽に携帯を渡すなんて、何考えてるんですか! 無用心にも程があります!」
月々お金がかかることなのに、そんな簡単に俺を信じきって悪用でもされたらどうするつもりなのか。妹の携帯を契約する時に料金を見てその高さに激しく驚き、「絶対に使いすぎんなよ!」と口を酸っぱくして厳命した事が思い出される。
まったく、霧生さんのする事は突拍子もない。
その上、こっちが本気で忠告しているというのに嬉しそうににこにこ笑っている。
「なんだか心配してくれてありがとう。こんな風に誰かに叱ってもらえるなんて、いつ以来かな」
「そういう問題じゃないでしょーがっ!」
また話があさっての方向に飛んでいってしまっているらしい。さらに鼻息を荒くする俺など、どこ吹く風で車のエンジンをかけている。
「だって連絡とれないと何かと不便でしょ。それとも、堂々と遠藤くん家に電話して食事に誘ってもいい?」
「う、それは……」
結局は霧生さんに言いくるめられて、渋々受けとった。だが、「これは、あくまでも霧生さんからの着信用ってことで預かるだけですからね!」と釘を刺すことも忘れない。普通は、渡すほうが言うことだとは思うのだがこの際仕方ないだろう。
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