第5章

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第5章

 仕事柄、休みが不定期な霧生さんが珍しく土曜日に休めるということで、朝からドライブの約束をしていた。知り合ってから三ヶ月ほど経つがこうやって昼間からどこか遠くに出かけるのは初めてのことだ。 「今日は、海に行こう」 「いいですね、天気もいいし。俺、海久しぶりかも」  海どころか、ドライブなんてもの自体久しぶりで――ドライブっつっても親父のトラックに乗っけてもらってただけだけど――俺は、遠足に向かう子供のようにうきうきとした気分になっていた。  空は雲ひとつない快晴。ふりそそぐ太陽の光はやわらかくまだ夏のものとはいえないが、それでも車の助手席に座ってガラス越しにいっぱいに浴びていると、ちりちりと灼け付くような強さを感じる。それさえも、何か非日常のような昂揚感があって気持ちがいい。  霧生さんの運転する車は高速道路にのった。まだ午前の早い時間ということもあって車の数は少ない。若芽がめぶき瑞々しい緑色になった木々がびゅんびゅんと後ろに流れていく。窓を少しだけ開けると、心地よい風が入ってきた。  最近では特に会話らしい会話をしなくても、こうやって二人でいることに居心地の悪さを感じない。  カーオーディオからは耳馴染みのよい優しいギターの音色。英語の歌詞に合わせて霧生さんが口ずさんでいる。俺はそれに耳を傾けながらとても満ち足りた気持ちになった。
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