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第6章
珍しく、家族七人全員が食卓に揃った。
親父は遠距離から帰ったばかりだし、母さんもパート先のスーパーが休業日で家にいる。俺も試験期間だったため今日までバイトは休みだ。
普段は子供達だけだったり片方の親だけだったりするが全員揃うとさすがに賑やかになる。人数的なものもあるだろうが、やはり『全員揃っている』、と思うとなんだか嬉しくなってみんなのテンションも自然と上がるようだ。
それは食欲増進の効果もあるらしく、山ほど揚げたコロッケは次々と争奪戦の餌食になっていった。
「やっぱり家族揃って食う飯はうまいな」
親父はニコニコしながら美味そうに発泡酒を飲んでいる。
すかさず双子の弟優太と健太が口を挟む。
「耕兄ちゃんズルいんだよ! 最近は家でごはん食べないんだよ! きっと外で美味しいもの食べてるんだよ!」
いらん事をチクりやがって。
「そうなの? 耕平」
案の定、母さんが心配そうな顔で尋ねてくる。どうせ、食事もとらずに働いているのではないかと勘繰っているのだ。
「うん、バイト先で賄い出してくれるし、先輩がイイ人でたまに奢ってくれたりとかするからさ。ごめんな、優太、健太。兄ちゃんばっか美味いもん食って。そのかわり兄ちゃん腕によりをかけて料理作るから」
また嘘をついてしまった。でもさすがに男に貢いでもらってるとも言えないので仕方ない。
それにしても母さんには困ったものだ。何かと言うとすぐ俺のことを心配する。無理しすぎなんじゃないか。自分の時間をちゃんと持てているのか。家族のために犠牲になってやしないか。等々、そのまま本人に言い返してやりたい台詞だ。こういう時は決まって修平にとばっちりが行く。
「修平も忙しいとは思うけど、たまには耕平の手伝いしてあげてね?」
案の定だ。
「知らねーよ。兄貴が好きでやってることだろ? 俺が手伝ったらかえって迷惑なんじゃね?」
「修平! そんな言い方……!」
「いいんだ、母さん。俺全然平気だし。なんか根っから貧乏性だから動いてないとかえって調子狂っちゃうんだよね」
「耕平……」
母さんも修平もきっと気づいているんだ。俺ががむしゃらに頑張る訳を。
だけど、俺に甘えは許されない。家族が幸せであるために頑張らなきゃいけないんだ……。
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