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第9章
一人取り残されてしまった俺は、どうしたらいいかわからず不安に押し潰されてしまいそうだった。だけど、おろおろしてたってしょうがない。気を取り直すと、雨に濡れた体だけでも拭ってやろうと思い立った。
引越しの荷物の中からハサミを探し出し、怪我に障らないようにそろりそろりとシャツを切り、やっとの思いで服を脱がせる。
どす黒く変色した腹部が痛々しくて、涙がこみあげそうになる。医者志望だというのにこんな時に何もすることができない自分が歯がゆい。
しばらくすると霧生さんの脈拍は正常の速さに戻った。顔色も幾分血の気を取り戻したし、規則的な寝息を立てている様子からもとりあえず危機的な状況は回避したようだ。
霧生さんの体をタオルで丁寧に拭っているとカチャリとドアの開く音がして、振り向くと見知らぬ男性が立っていた。
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