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僕の名前は山田獅子。
派遣生活から抜け出したい平成生まれの作家志望者だ。
派遣生活は長く、すでにいくつもの職場を回ってる。
いろんな職場を体験できたおかげで相応の実力は付いたと自負してる。
けど不思議と待遇は勤め先が変わる度に悪くなってった。
派遣会社の仲介者様は「山田さん評判良いですよ」と褒めてくれんだけど、一癖も二癖もあるような職場ばっかり回されてると本当の話か疑わしい。
実際、いま派遣されてる職場状況も結構酷いし。
作業の中心だった前任者が突如失踪したせいで、急遽穴埋めで僕が派遣されたのだ。
前任者がいないのだから当然引き継ぎもない。
よって明確なルールも判らぬまま、残されたデータから依頼先ごとに違う好みを推測しながら作業しやきゃいけない。
一見なんでもないようで、実は地雷が潜んでるなんて当たり前。
気分は紛争地帯に放り出された民間人。
いつなにが起こるかわかったもんじゃない。
ちなみに失踪の件を教えてくれたのは総務のおしゃべりおばさんだ。
仲介者様は「やりがいのある職場」としか教えてくれなかった。
確かに仕事だけはゲップが出るほどある。
さらに深夜残業(22時以降)は基本給の1.5倍にまで跳ね上がるから、2時間の労働で3時間分の給料が貰える。
そこだけみれば美味しいし、仕事の難易度はやりがいにもつながる。
だけど毎日終電に駆け込むような生活はもう嫌だ。
今日なんて土曜出勤だぞ!
「獅子く~ん、ちょっといいかな?」
印刷されたチラシを確認してると、年配の営業さんから声をかけられた。
すでに『くん』付けで呼ばれるほど若くない。けど、自分の子供と同年代らしいから仕方ない。
それより不味いのは話し方だ。
下手にした声の出し方は無茶な要求の前触れ。
僕は営業さんの笑顔が、作業の難易度に反比例して明るくなるのを経験上熟知してる。
この様子だと土曜夕方入校したやつを、月曜の朝一までにやってくれと言ってくるだろう。
さすがに日曜まで仕事はしたくない。
ということは土曜も残業ってことだ……。
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