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女性にしては背が高い方だった。整った目鼻立ちは人形のようだった。行く先々で人目を惹いた。大人しい見た目とは裏腹に、口が立つ人だった。
目を閉じたって、姿かたちはすぐに思い描けるのに――。
表情だけが曖昧に淀んで、見えなくなってしまう。
それでいつも、わたしは姉を振り向かせたくてたまらなくなる。どんなとりとめのない話でもいいから、彼女に語り掛けなくてはいけないような気がしてしまう。
何か言わなくては、このまま姉が消えてしまうという焦燥が、ずっと心の中で震えている。
けれど。
探せば探すほど、わたしの中には何もなくなって――。
結局、声を上げる前に、口は閉じてしまう。
本は捲られていく。残りのページは少なくなる。その指先を少しでも止めたいのに、とうとうと流れる竜の涙で作られたという時間の流れは、決して止まってはくれない。
恋の話ができればよかったろうか。なりたいものがあればよかったろうか。定期市で売られる宝石の話や、誰かの噂話を囁ければよかったのだろうか。そういう言葉で、市井の娘は竜の涙を止めているのだろうに。
そのどれも――わたしたちには知りようもないのだ。
何も思いつかないまま、沈黙は流れる。いつものように、わたしが部屋に戻ると言い出すまで、姉は穏やかにそこにいるだけだ。
だが、その日だけは違った。
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