01.セピア・メモリーズ

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「友人と言って良いのか、それともなんなのかよく自分でもわかりませんが、お祝いの言葉を」 彼女がこちらを見て、表情を変えた。心配しているのだろう、少々オーバーに肩を落とし、つまらなくならないと良いなあなんて願って口を開いた。 何をしたか。ノートを貸してもらった話。ランドセルをカタカタ揺らして走り回っている私を他所に室内でぬくぬくしていた話。中学で違う友達と遊んでいる中で帰り道見かけて大きく手を振ったのに盛大に無視された話。高校志望校が被った話。受験合格に騒いだ日、普通クラスが分かれるはずなのに専攻が被ったのでまた一緒だった話。 なんだか話していたら悪口になりそうな憎まれ口にならないか早鐘のように鳴っている。鳴っているのに、心は不思議なくらい、高揚している。 嬉しいのか、先越された!という悔しさなのかよくわからない。それでも、そう。それでも間違いなく、私は目の前の2人を祝福している。 「ということで、今改めてしみじみ幸せを感じているので、ちょっとそのハッピーにあやかれたら、明日からの仕事の活力にさせてもらいたいです」 おめでとう、ともう一度言ったらなぜか彼女が泣いてしまった。そんなに良い話でもなかったけれど、そんなに悪い話でもなかっただろう。 ゆっくりと拍手に変わって、旧友たちが私を見ている視線がばかだなあと笑っている気がして、片手をまるで演説したかのような形で挙げた。 まだ、どこか耳鳴りのようにどこかであの曲が残響として聞こえてくる。 目の前の男は、私を見て口パクで何か言っている。 このやろう、なのか、ありがとう、なのかは分からない。 だけど、まあ、それもきっと悪くない。後で絡み酒待った無しだ。 恋心を持ったことなんて一度もない。でも、なんだか不思議な気持ちばかりで、ひひ、と笑った私もまた、なんでか隣にいた花嫁と同じような顔をしていたようだ。 今日、めくるめく世界の片隅で悪友のような他人のような近しいような遠いような幼馴染が結婚する。 ひひ、とまた歯を浮かべた私に、彼は同じような笑いをしてみせた。 それはあのセピアの記憶の片隅で延々聞かされたクラスの男子たちのあの曲を聴いていた、クラスの端っこと端っこにいた私と彼の奇妙な同意の合図だ。 幸せになれ。もう道は交わらないけど、まあ気楽に連絡してよ、なんてね。
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