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まな板に寝かされて
あたしは首を持ち上げて自分の身体を見る。
全身が深緑色の鱗で覆われていた。
やだ、なにこれ、気持ち悪い。
光沢のある鱗は照明を反射し、ぬらぬらと妖しく光っている。
これでは人魚どころか半魚人だ。
若い頃から男に褒められ続けてきた自慢の白い肌はどこにもなかった。
いったいあたしの身体になにが起こったの?
芳しい木の香りがする。
あたしはヒノキのまな板の上に仰向けに寝かされていた。
意識ははっきりとしているのだが、金縛りにあった時のように身動きがとれない。
ふと上を見てみると、夫のしかめ面が目に入った。
角刈り頭に捻り鉢巻き、板前の格好をした夫は、腕組みをしてあたしをにらみつけている。
その右手にはなぜだか出刃包丁が握られていた。
あたしの頭にいくつもの疑問符が浮かぶ。
そもそも営業マンのくせに、なんでそんな格好を――
「では、始めます!」
夫が突然、野太い声を上げた。
ちょっと、なに始める気?
逃げようともがくのだが、ぴくりとも身体は動かない。
夫は出刃包丁の柄を手の中でくるりと回し、刃の背であたしのおなかをこすり始めた。
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