第三章 最悪の初めて

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 思わぬ邪魔が入ったおかげでお楽しみをふいにされてしまったガイは、寮の自室でビールをあおっていた。  まだ飲酒のできる年齢ではないが、そんなことお構いなしだ。飲みたかったら飲む、寝たかったら寝る。一度きりの人生だ。好きに生きていたいのだ。  レンヤの奴。あと少しでイケたのに、邪魔しやがって。  大体、女と寝るように仕向けたのは、お前のせいだ。罪な色気を、だだ漏りにしやがって。  そして、現場を眼にして驚いていたレンヤの顔を思い出し、くすりと笑った。  あの顔は、慣れてねえな。もしかして、まだ処女か? いや、男だから童貞か。  もうハイティーンだってのに、まだヤッたことねえのか。  だったら。  ビールを散々飲んだガイの頭はすっかりいい気分になっており、普段なら考えもしない事がするする浮かんでくる。  だったら、俺が抱いてやろうじゃねえか。  そう、好きに生きたらいいのだ。寝たかったら寝る。そっちの方が、俺らしいじゃあねえか。  酔いの回ったご機嫌な心地で、ガイはレンヤの寮へと向かい始めた。    手のひらが、かすかに震えている。まだ動揺しているのか、とレンヤはため息をついた。  さっきはひどく驚いた。  遊び人のガイが、いろんな女の子と付き合っていることは知っている。しかし、まさか屋外で、試合の終わったその足で情事に耽るなんて。  そして、自分のとったあまりにも情けない言動にうなだれた。  ごゆっくり、なんて。  慌てて走り去るなんて。    僕も大人なんだから、もう少し余裕のある態度をとりたかったのに。    まだ幼いころから、周りより一歩も二歩も大人びた行動を取るガイに憧れていた。一生懸命背伸びをし、何とか追いつこうとがんばった。  でも、一歩近づけば二歩、二歩近づけば三歩ガイは遠くなる。どんどん離されていってしまう。 「あぁ、自己嫌悪」  そうひとりごちたレンヤに、にやけた声がかけられた。 「何が自己嫌悪なんだよ」 「ガイ!?」  まさか本人が現れるとは。レンヤの頬は、さっと赤く染まった。 「あ、あの。さっきは」 「さっきは?」 「さっきは、ごめん……」  許しも請わず、ずかずかと室内に上がりこみ、どかりと隣に座ったガイの息は、少し酒臭い。この上、飲酒までしているのかと、レンヤは驚いた。どこまで大人なんだ、この人は。 「許せねぇなぁ」 「え?」
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