第三章 最悪の初めて

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 軽く触れるように、そして時には強く吸うように、ガイの舌はレンヤの首筋を遊ぶ。彼が動くたびに、柔らかい髪が顎に、首に触れ、レンヤは震えた。鳥肌が立つ。でも、それもまた嫌悪からくるものではないのだ。  首筋をさまよっていた唇はさらに下へ下へと進出し、ついにははだけた服の間からのぞく白い胸へと降りていった。手を広げ、指腹で胸を撫で回す。それに唇が、舌が加わりレンヤをいじめてくる。 「や……いや……」  イヤと言っても本心ではないはずだ。ガイはレンヤの反応を好意的に感じていた。  今まで抱いてきた女もそうだ。口では嫌がっても、すぐに濡れてくる。処女を抱いたことも何度かあったが、それでも未知の興奮に身をゆだねてきたものだ。  胸を嬲りながら、そっとレンヤの下半身に片手を伸ばした。きっとそこは、硬く勃ちあがっているはず。そう考えながら、内股に手を当てた。  びくん、とレンヤの体が跳ね上がった。いい反応だ。しかし、ガイは手を止めた。レンヤのそこはまるで満ちてはおらず、ぐったりと静まり返ったままなのだ。  思わず顔を見て、はっとした。  赤く染まった頬。潤んだ眼。しかし、その眼は涙をいっぱいたたえているのだ。首を傾けた拍子にぽろりと大粒のしずくがこぼれ、ガイは一気に酔いがさめた。  処女に泣かれたこともある。しかしそれでも最後まで体を交わらせてきた。その涙は一過性のもので、事が進むにつれ嬉し涙に代わっていくことは充分解かりきっていたから。容赦などしない。そんな意気地無しではない。  だが、レンヤの涙はこれまでとは違う重さをもって、ガイに訴えかけてきた。  硬くこわばったままの体。震える声。怯えた眼。これ以上進むことがためらわれた。これ以上いじめてはいけないと、心が警報を発してきた。 「怖いか?」  返事はなかった。ただ、ぎゅっと瞑った眼から、涙がぽろぽろこぼれてきた。ゆっくりと抑え込んでいた体を浮かせ、ガイはレンヤから離れた。 「ごめん、悪かった」  やっとの思いでそれだけ言うと、部屋を出た。  自室へ戻ると、もう一本ビールのタブをあけた。一口飲んで、大きくため息をついた。  体はひどく昂ぶっている。早くどうにかしてくれと、性欲が悲鳴を上げている。でも、それでもレンヤを抱けなかった。  無理やりにでも犯すつもりで出向いたのに。
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