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午後が思いがけず空いた。
C級訓練生の修練を見るはずだった第二屋外修練場が、怒り狂ったスズメバチに占拠されてしまったのだ。
午前中に使った生徒のひとりが、修練場の側に立っていた木に思いきり叩き付けられ、人知れず掛けられていた巣を激しく揺さぶってしまったらしい。
近づく者は全て攻撃する気で満々のスズメバチを駆除するには、奴らが寝静まる夜を待つしかない。
修練場が使えない、となると、ガイはとっとと解散を命じた。
別の場所でやればいい、との声は無視した。
空いている場所を探す時間があるのなら、午後は休講でのんびりしているはずのレンヤのところへ出向く方が、何万倍も魅力的だ。
それにかねてからの計画を実行するには、またとないチャンス。手土産を持って、ガイはレンヤの寮を訪ねた。
「今日はいいもの持ってきたぜ?」
そう言って掲げて見せたガイの手にあるものは。
「ワインなんて、そんな」
まだ未成年なんだから飲酒なんか、と慌てて手を振るレンヤに無理強いはせず、一口だけ、とグラスを渡した。本当に、一口分注ぐ。
「まず、香りを楽しむんだ」
もっともらしい事を言い含めながら、勧める。
恐る恐る口にしたレンヤは、その芳醇な味わいにすっかり心奪われてしまった。
そりゃそうだろう、とガイはほくそ笑んだ。何か特別な時に開けようと思って大切にしておいた、とっておきの一本だ。
ただ、飲め飲めと煽りはせずに、黙ってグラスにワインをたっぷりと注いだ後、何気なくいつものようにソファに腰かけ写真集を開いた。
つまみに持ってきたチーズをかじりながら、自分は時折ワインを飲む。そんなガイを傍で見ながら、いつしかレンヤの手も、そろそろとグラスに伸びていった。
二人で寄り添って本を眺めては、いつかこんな場所へ行ってみたいなどと笑う。
その合間に、グラスを傾ける。
そんな事を繰り返しているうちに、レンヤはすっかり悦い心地になってしまったらしく、ガイにもたれかかってきた。
「いつか、本当に連れてってやるからな」
いつになるか解からない約束も、甘い響きでレンヤの耳に届く。
今は、別の場所へ連れてってやる、と心の中で囁いた後、ガイはレンヤに口づけた。
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