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虹の雪
ぐるぐると巻いたマフラーからはみ出た、鼻先と耳が凍るほど冷たい。
大きく息を吸うと、鼻の奥も、肺の中もひやりとした夜気に満たされる。ほう、と空に吐いた白い息に、満月が滲んで見えた。
「彩夜ちゃん」
少し前を歩く涼太が振り向いて笑った。
昔よりも伸びた前髪。丸くぷっくりとしていた頬は、すっとして精悍さを増した。けれどずっと変わらない、優しく細められた瞳。
その満面の笑顔は、幼い面影を残していて、可愛らしさにくすりと笑う。
雪明かりの中で見上げた空に、幽かな膜が月の周りに輝いていた。
「ねえ、彩夜ちゃん。ほら」
そう言って、骨ばった右手でまんまるく輝く月を指し示す。
隣を歩く私が視線を動かしたのを確認してから、涼太は言葉を続けた。
「夜なのに、虹が出てる」
「きれい?」と涼太の目を覗き込むと「うん」と素直な返事が返ってきた。
散歩に出てみてよかったなと、彼の笑顔につられて口元を綻ばせた。
寒くない? と、涼太の左手が私の手を取って、そのままポケットに入る。いつもの散歩道で、珍しいものが見れたと、涼太はすごく嬉しそうに笑っていた。
ぎゅ、ぎゅっと雪を踏みしめながら、二人並んで静かな公園を歩く。
私の顔と、月虹とを交互に眺めては、星よりもきらきらと目を輝かせていた。
私の幼馴染で、そして恋人。
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