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涼太が嬉しそうなのは私も嬉しい。
静かな公園に、彼の穏やかな声が弾む。
「ねぇ涼太」
「ん?」
「なんでもない。呼んだだけ」
違う。
それはあなたをそんなに笑顔にするほど、素敵なものなの? と、本当はそう聞きたかった。
同じように見上げても、そこにあるのは幾重にも月を覆う、薄布のようなぼんやりとした膜。暗い夜空で、ふわりと幾重にも月をくるんでいるだけ。
月の周りが、薄ぼんやりと翳っているような、光っているような。
私の目に映るのは、ただ、それだけ。
同じ景色を見ることは出来ない。それがとても残念。
でも・・・そう思って隣を見上げた。
涼太のこの笑顔が見れるのなら、悪くない。
そう思いながら、ポケットの中の手をぎゅっと握りしめた。応えるように握り返される熱が、とても愛おしい。
「彩夜ちゃん、寒い?」
無言で月虹を眺めていた私が、繋いだ手に力を込めたことで、立ち止まって涼太が尋ねてきた。
涼太が歩みを止めると、手を繋いだ私も、自然と隣で立ち止まることになる。
ずいぶんと背の伸びた涼太が、私を見ている。
小さく首を傾げて、窺うように、目線を合わせるように。
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