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「檻みたい」
私の目に映る、月を囲う白い靄。
涼太がきれいだと言って喜ぶ、月の虹。
ぽそりと呟いた私の言葉に、きょとんとした顔を見せてから、「檻かぁ」と屈託無く笑って、「夜空の月を手に入れようとする男の話って、なかったっけ?」と続けた。
触れる腕の温かさを感じながら、
「水に映る月を取ろうとして、猿が溺死した、って故事ならあったような・・・」
「そういう怖いのじゃなくて!」
間髪入れずに否定された。
ぴたりと寄り添って歩くと、自然と歩く速度が穏やかになる。一人なら、寒くて急ぐ冬の夜道だが、涼太と二人なら、ゆっくり歩くのも悪くない。
コートのポケットの中で、二人の指が絡む。
「寄り添ってるんだよ」
僕たちみたいに、と子犬のような涼太の笑顔。
「覆われてて、あったかそうじゃない?」
言われて見上げると、白い靄が真綿の布団のように見えてくるから不思議だ。
涼太の言葉は、魔法みたいだ。
少しかがんで目線を合わせた涼太が、顔を寄せて月の虹を指さした。
「赤、橙、黄色・・・」
彩る名前をあげながら、少しずつ月に向かって指を動かしていく。
「緑、んー・・・あとはあんまりはっきりわかんないや。あとは、青と藍色と紫だったかな」
「・・・・・わかんないって、言ってるのに」
そうだね、と何でもないことのように涼太は言う。
幼馴染なのだから、涼太も判っているはずだ。
私の目は、色を見ることが出来ないのだと。
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