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「彩夜ちゃん」
少し拗ねたように俯いた私の名前を、愛おし気に涼太が呼ぶ。
「彩夜ちゃんの好きな薔薇は、赤色」
誕生日にもらった薔薇の、手触りと香りを思い出す。
「彩夜ちゃんの好きな、こたつのお供と言えば?」
「・・・みかん」
「橙色」
「買い置き、あったかな」
「買っておいたよ。玄関に置いてある」
用意が良い。きっと、昨日から散歩に誘うつもりでいたのだろう。
「夏に、巨大迷路に遊びに行ったよね」
出口にたどり着けなくて、リタイアするか本気で考えたよね、と涼太が笑いながら肩を落とした。
「ひまわり迷路」
「黄色」
「涼太、涙目になってたよね」
「それは忘れて」
次の夏も一緒に行けたらいいなと、頷きながら思い出して笑った。
「これ」
と、涼太が自分の首に巻いたマフラーに触れる。
「去年あげたやつ」
「うん、彩夜ちゃんの手編み」
気に入ったマフラーが無いというから、好きな色の毛糸を選んでもらって編んだ。三つ編みみたいな模様も入れて、自分でも上出来だと思う。
「綺麗に編めたと思う」
「緑色」
頬を寄せると、ふんわりと柔らかい。
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