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朝食を一緒に食べるために、涼太の目覚ましで、私もいつも起きている。先に朝食を作っている間、二度寝している彼の寝顔を見て楽しんでいるのは、私のささやかな秘密だ。
「夏祭りにも行ったね。毎年さ、一緒に行ってるけど、二人で浴衣を着ていったのは初めてだったよね」
昏い夜空に、ほわん、ほわんと灯が浮かぶ。
並ぶ屋台の煙で霞む提灯の灯と、あの独特の賑わいと熱気が、幻想的に見えた。
「楽しかったね。久しぶりに、綿あめ食べて」
「りんご飴も」
あと焼きそばと、たこ焼きと、あと・・・、と指折り数える涼太に、
「涼太は食べすぎよ」と笑う。
「浴衣姿、新鮮だったなぁ」
「僕が選んだ浴衣、すごく似合ってたよ」
一緒に買い物に行って、さんざん悩んで選んでくれた浴衣。袖と、裾と胸元に、大きく紫陽花が描かれていた。
「紫の、紫陽花」
薔薇の赤、
みかんの橙、
ひまわりの黄色、
手編みのマフラーの緑色、
リップクリームのキャップの青、
模様替えした部屋のカーテンの藍色、
涼太が選んでくれた浴衣の紫陽花の紫。
涼太と過ごして彩られた、虹色の世界。
とても鮮やかな、涼太の心。
「七色そろったね」
そう言って、真っ白い冬の夜に涼太が笑う。
「うん」
「一緒に居ると楽しいよ」
「うん」
私も。
とても素敵。
こうして、なんてことないように笑う涼太が。
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