それは切り裂くトロイメライ

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互いに歩み寄るや否や、久遠は九尾を抱えた。俗に言うお姫様抱っこの形だ。久遠の首に手を回した九尾は、さして気にする素振りも見せなかった。 「宿までお願い、ダメージ修復は毎回堪えるわ……」 「了解、あんまり無理はするなよ」 「善処するわ」 「……曖昧だな、っと」 あまり願いを聞く気のない九尾の言葉にやや呆れつつ、久遠は軽く飛び上がり民家の屋根に着地。そのまま走り始める。 相も変わらず浮かんでいる月は冷たい光を地に降らし、そこを駆ける人影は瓦の屋根に影が出来るよりも早く前進する。 「湯浴みは朝にする、今日はもう寝たい」 「もとよりそのつもりだ、どうせ明日は日中の依頼をこなしてそのまま次の街に行くんだろ?」 「そうね、特にここで長期活動する程司守も武身も足りていない訳ではないみたいだし。身支度とかスリッピーキラーの報告もそう時間はかからないと思うし」 「だな、ならとりあえず今は宿で休むか――――と、到着」 「ありがと」 宿、そう呼んだ石造りの建物二階にあるベランダに降り立つ久遠。勢いを消し、ゆっくりと九尾を降ろす。 「早く寝ましょ、来て」 「またか……別に俺でなくてもいいだろうに」 「つべこべ言わないで来て」 「ハイハイ……」 簡素な部屋にあるベッド、そこに腰を掛けた九尾は着の身着のままで久遠を呼ぶ。     
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