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巨大なその背を前傾させ、荒々しい息遣いとだらりと伸びた舌をそのままに殺気に満ちた視線を九尾に浴びせていた。だが、それをものともせずに九尾も大剣を構える。
「行くわよ、久遠。出力パスを安定させて」
〈了解〉
「……その悪性に満ちた骸の首、貰い受ける!!」
咆哮にも似た口上。
意思疎通は不可能な魔性に、己を鼓舞するように叫んだ九尾は低い姿勢のまま懐に潜り込む。この場合、身長差があるなら捕まることは許されない。小柄な体と素早さを活かし、撹乱からの必殺の一撃を狙う。
「――――――――っ!」
いつの間にか縮小したかの如く――――否、本当に縮んだ大剣は軽快に振り回すのに最適なサイズになり九尾の手に収まっていた。
下段からの右切り上げ、完全に意識と視界の死角からの斬撃。闇の中に溶けた大剣は完全なる殺意と共に巨体の魔性の胴体を正確に捉えていた。
(――――――獲った)
〈っ違うつづ!コイツ――――『視えて』いる!〉
久遠が叫んだ。
九尾は上体をも低くしていたため気が付くことができなかった、スリッピーキラーの左腕が九尾を叩き潰さんと振り上げられていたことに。
「しまっ――――」
透き通るような声が鈍い音と共に石畳に叩き付けられた。
肥大した血色の悪い腕はきめ細やかな首筋をいとも容易く捉え、そして容赦無くその体ごと固く冷たい地面へと圧し潰した。
一瞬の交戦、そして静寂。
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