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石畳の溝を紅い液体が歩く。汚らしく飛び散った鮮血は放射線状に広がり、少女の体は僅かも動く事は無かった。
キキキ、と。魔性の喉が鳴る。
虚ろなその瞳――――があるはずのそこは唯々白一色だったが、それでも視線らしきものが九尾に向いているのは容易に推測ができる。それほどにハッキリとした殺意と悪意が少女に向けられていた。
ゆらりと振り上げられた右手、その手に握られたスクリープカッターを振りかざす。一切躊躇せず、一切逡巡せず、一切澱み無く、刃を振り下ろした。
「――――――――あいっかわらずお前たち魔性は本能的だよな、まったく」
暗闇の空間に激しい火花が明滅する。スクリープカッターの刃は九尾の首ではなく、彼女が先程まで握っていた大剣と交錯していた。
その大剣は刃の中ほどから人の腕に、更にその先は紺色の短髪と紅蓮の瞳を持つ青年であった。九尾を右手で抱き寄せ、左手でスリッピーキラーの攻撃を阻んでいた青年――――久遠は、九尾よりは大きい180を超す身の丈とは言えそれでもある体格差をものともせず、徐々にだが押し戻していた。
圧倒的不利である下方からの思わぬ防御に思考の混乱が起こるスリッピーキラー、その隙を突くように久遠は後方へと飛びずさった。
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