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背後に居る魔性に見向きもせずに久遠はそう呟く。
致命傷こそないものの、明らかに戦闘不能にしたスリッピーキラーはしかし、殺しきるに至るまでにはならなかった。
四肢の断面からは黒い靄の様なものがぞるりと湧き、落とされたはずの手足の容を作り出していた。そして何事も無かったかのように、その四肢は寸分違うことなく元に戻る。
――――『魔性』とは、人の罪と怨恨、負の災禍が具現化したものだとされている。それぞれが強力強大な力を有し、そしてまた生半可な攻撃では傷つける事も困難である存在。身も蓋も無い話ではあるが、人が恩讐を捨て去ったその時が来ない限り、魔性が根絶される事は無い。そして、致命的なダメージを負わせ構成する負の全てを無害なレベルにまで霧散させない限り、打ち倒すことは叶わない。それらを倒し、人の『延命』を行っているのが久遠の様な己を武器に変化させる力を持つ『武身』と、九尾の様に武身などを扱い戦う『司守(つかさもり)』と呼ばれる者たちなのだ。
「……そろそろか」
ふとそう呟く久遠、その視線はスリッピーキラーに向いているようで少しずれていた。
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