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その先には先程脳天から固い地面に叩き付けられた九尾が居るはずの場所だ。視線を向けた意味に疑問を持ったスリッピーキラーが振り向いたその視線の先には――――――
「――――……ごめんなさい、久遠」
――――――――『燃えていた』。
純白の炎が出血していた傷を覆い、それらは全くの痕跡も残さずに消え去っていた。
燃えていたのだ、比喩でもなんでもなく、文字通りに。人体発火現象が現実にあるのならば正しく疑いようの無い現象。その白き炎を身に纏いながら、無傷の九尾は再び視線をスリッピーキラーに。
「今日はいつもより復帰が遅くなかったか?」
「脳震盪起こしていたのだから少しは慮って、容易いものじゃないのだから」
「それもそうだったな、で?」
「ん、作戦変更。各個別にスリッピーキラーの討伐を優先」
「委細承知」
スリッピーキラーを挟み込むように九尾と久遠は立つ。未だ傷を修復している炎を纏った九尾は、徐に両腕を体の前面に交差させた。露になった両手には朱塗りの文字が書かれた呪符。
「――――――詳らかに申し申され、斯くなるは九尾の名の元に在る天狐焔の語り也。畏み畏み宣うは、神威の天照を賜りたく、我が身をくべて大火と成らむ」
透くような声が夜空にまで響く。祝詞にも似たそれを語るその姿は神前の神子の如く、指に挟んだ札が微かに焔をちらつかせている。
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