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スリッピーキラーの巨体が揺らぐ。完全に死角を突かれた攻撃に、さしもの魔性と言えど怯みざるを得なかった。形容し難い声ならぬ声をあげ、体勢を崩した魔性には終ぞ見ることができなかった。美しき天の炎を。
「『天焼牙戟(てんしょうがげき)』!!!」
尽くを灼く劫火が掲げた右手に収束し、やがてその形状は槍となった。不定形に揺らめくそれは、予定調和の如く佇む魔性に向かって射出された。
乾いた炸裂音が辺りから響く。急激な温度上昇に伴い、周囲一帯の空気中の水分が一斉に蒸発。それによって起きた破裂音が周囲を埋め尽くし、路地の一角のみが天高き太陽が在る昼の如き明るさと騒々しさとなった。
――――熱線。
迸る閃光は視界を白に塗り潰しなおし、耳につく音と共に数秒間感覚機能を失わせた。
そして数秒後、回復した視界には焼け焦げ所々が赤く変色した石畳と、魔性のものと思しき炭化したオブジェが立つのみだった。
「……ふぅ」
焦げた臭いが鼻につく中、軽く一呼吸を置く九尾。
チリチリと肌を焼く空気から逃れるように踵を返すと、そこには服の裾を少し焦がした久遠が立っていた。
「危うくお前の攻撃に巻き込まれるところだったぞ」
「そっちが少しタイミング遅かったの、私は何時も通りやっていたわ」
「はいはい……わるぅござんしたっと」
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