それは切り裂くトロイメライ

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それは切り裂くトロイメライ

――――その夜は、酷く月が美しかった。 薄暗い路地は瓦斯灯の灯りによって辛うじて石畳の道が見える程度。そこに一人の少女が居た。  嘗てローマで同量の金と同じ価値と言わしめた絹の様な白き髪をゆらゆらと揺らしながら、無骨で身の丈を優に超す両刃の大剣『永久剣(とこしえのつるぎ)』を携えている少女は、朱塗りの下駄を小気味良く鳴らし悠々と歩いていた。  〈調子はどうだ?つづ〉  その場にある人影は彼女一人分、しかし聴こえたのは青年の声だった。そしてその声が発されたのは少女の持つ大剣から。  少女――――つづ、と呼ばれた彼女の名は『九尾(つづらお)』。  『魔性』と呼ばれる人に害成す存在を討伐する事を生業としている彼女は、然したる表情の変化も見せずに大剣に返答する。  「いつも通りよ、その位わかるでしょ?久遠(くおん)」 凍てついた様な、しかしどこか親愛の念が混ざった声色で九尾は返した。視線は前方の漆黒に向き、神経を周囲に張り巡らせながら、それでも久遠と呼ばれた大剣に言ったその言葉に、青年の声は笑いながら応えた。 〈悪い悪い、この街に来て初めての依頼だから緊張解しにな〉 「白々しすぎて応えないで居ようかと思ったわ」     
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