対話

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 対話

「─────」  慣れた手つきでレジ打ちをする彼。  マニュアルを呟いた後、商品を持ってくる私を見るなり目を丸くして言葉を失ったようだった。 「あ……、失礼しました……」  手を止めてしまったことを詫びる彼に、私は「いえ」と短く答えて首を振った。  商品のバーコードを読み取って金額を淡々と告げる彼は、いささか動揺しているようにも見える。  そして財布からお金を出そうとしている最中に、彼の方から切り出してきた。 「──先日、事故がありましたよね」 「───……」  思わず手を止める。 「ちょうど、あなたが帰った時間帯です。事故に遭われたのが女性だと聞いて、だから、てっきりあなたなのかと思って、驚いてしまって──。すみません、こんなこと、失礼ですよね」 「………………」  ──あの事故に遭ったのは、紛れもなく私だ。  もしかしたら彼は、事故の記事や近所の話などから、死んだのが“私”であることを知ったのかもしれない。  だけど、現に“私”は目の前にいる。  実体を伴って、買い物までしてここにいる。  だから彼は、一瞬幽霊を見たような顔をした後、それを真っ向から否定した。  事故に遭ったのは、“私”ではなかった。  あるいは、死んだと思われていたが実は一命を取り留めたのだと──。  彼の思考の変遷が見て取れて、私は何だか可笑しくなった。 「やだなぁ。私、幽霊なんかじゃないですよ」  だからこそ、こんな冗談も言える。 「私、死んでなんかないですよ」と──。
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