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夢
それから数日、“お墓”のことが頭から離れなくなった私は、自分の墓石を見に行くことにした。
そこは、バスで行くほど離れた所にある小さなお寺。
墓地の一画にある、何の変哲もない普通の墓石だった。
そっと墓石に触れると、胸が詰まるような苦しさが募る。
どうして、自分の死体を見た時に胸の中にわずかな哀れみと後悔が過ったのか、わかった気がした。
彼と再会して、彼が私のことを覚えていてくれた。
誰かが、自分の存在を覚えてくれたこと。
それだけで十分過ぎるほど嬉しくて、彼との再会をきっかけにもう一度人生をやり直したいと思ったのかもしれない。
こんな私でも、夢を見ていた頃がある。
そのことを思い出し、死ぬ直前にもささやかな夢を見た。
それは、死に向かって生きるのではなく、自分の人生を見つけて生きること。
(……ああ、そうか)
私は、やり直しがしたかったのだ。
人生のやり直し。
だけど、そんな決意をした矢先の死。
哀れみと悔しさで、胸が一杯になる。
どうして、もっと精一杯生きなかったんだろう。
どうして、もっとあがいて生きなかったんだろう。
笑いたい奴等には、笑わせておけばよかった。
見放す奴等なんか、放っておけばよかったんだ。
(……どうして、どうして……)
私は、自分のお墓の前で泣いた。
墓石に備えられた一輪挿しに手向けられた花は、既に枯れていた。
だから私は、自分で自分に花を手向けた。
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