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「──もしかしたら、もう限界なのかもしれない」
彼が苦笑いをしてそう打ち明けたのは、彼が生活用品コーナーで陳列をしている時だった。
私はその時、何とはなしに、陳列された歯磨き粉を手に取っていた。
愛用していた歯磨き粉。
そのパッケージのつるつるした感触とブルーミントの曲線を名残惜しそうになぞっていた指を止め、私は彼のその憂いを帯びた横顔を見つめる。
半ば夢を諦めているような、その憂い。
今、将来の話をする彼の表情は、あの時と──中学の時と同じものではなかった。
あの時は、照れ臭そうにしながらもどこか嬉しそうで、綻ぶ前の蕾のように希望に満ち溢れていた。
だけど今の彼は、咲くことを諦めた蕾。
咲くことも知らなければ、枯れることも知らない。
まるで夢という幻影に囚われて、いつまでも見えないゴールに向かって旅をする旅人のようで。
──苦しいのだろう。
さっさとその重荷を下ろして、解放されたいのだろう。
その青白い皮肉な笑みには、夢という亡霊に取り憑かれているようにも見える。
そんな人にとって、「夢を諦めるな」なんて呪いの言葉以外の何ものでもない。
呪縛と重荷。それを彼に背負わせることになる。
だけど、私は──。
「大丈夫」
彼に、はっきりとそう告げた。
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