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渇き
中学卒業後、僕は当初の希望通りに芸能系高専の演劇科に通い始め、舞台にも少しずつ出入りするようになった。
高専を卒業してもバイトしながら舞台に入り浸る毎日だったが、雑用ばかりやらされる日々にだんだんと将来の見通しが立たなくなっていた。
このままでいいのかと、募る不安。
一人暮らしの費用を稼ぐためにバイトを掛け持ちでやり続けるも、役者を目指して生きているのかバイトをして日々生きているのか、わからなくなっていた。
そんな時に、彼女が現れた。
一軒のバイト先が潰れたために、新しく地元のコンビニで働き始めたばかりの時だった。
彼女は店員の間でも有名な引きこもりニートで、事故で亡くした両親の遺産と保険金で暮らしているとの噂があった。
「高校にも行ってないらしい」
ある日のバイト終わり、休憩室で支度をしていると店長がスマホをいじりながら彼女のことについてそう告げた。
「中学終わりから引きこもりだったらしいよ。学校も行かず働かずで親の金でのうのうと暮らせるなんて、いいご身分だよね」
そんな話を聞いて居心地の悪くなった僕は、適当に言い繕って「お疲れさまです」と告げて休憩室を出た。
外に出ると激しい夕立に降られ、遠くでサイレンの音が聞こえた気がした。
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