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彼女
「─────」
いつものようにレジ打ちをし、一人の客に対応する。
500ミリのペットボトルの飲み物と、サンドイッチ。
その女性客を見た瞬間、それらのバーコードを読み取ろうとする手を思わず止めてしまった。
「あ……、失礼しました……」
謝罪すると、彼女は「いえ」と短く答えて首を振った。
きちんと服を着て、髪を整え、化粧までして。
彼女の変わりように、店員の誰もがあの彼女だとは気付かなかった。
だが、僕には彼女だと分かった。
どうして彼女がここにいる?
彼女は、事故で死んだんじゃなかったのか。
(まさか幽霊……)
いや、もしかしたら先日の事故で亡くなったのは彼女ではなく、別の人だったのかもしれない。
そうじゃなきゃ、こんなにもはっきりと、彼女が現れるわけがない。
──バーコードを読み取って金額を告げ、レジ袋に商品を入れる。
いつもの単純な作業なのに、手元はどこか覚束ない。
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