Epilogue(終章)

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 ──ある時、買い物から戻ってきたヴェルデに、ベッドの上にいるリュミエールがぼんやりと口を開いた。 「……君は、こうなることを望んでいたのか?」  リュミエールの方から話し掛けてくれることなど滅多になかったため、ヴェルデは驚いた。 「君は、ルッヒト家のせいで没落した一家の出なんだろう? いい気味だと思っているんじゃないのか?」  投げ遣りに問い掛けるリュミエールに、ヴェルデは静かに首を横に振った。  窓の外の閑かな葡萄畑に目をやっていたリュミエールは、ゆっくりと包帯だらけの顔をヴェルデに向ける。  ヴェルデもまた、深緑のフードを目深に被っているので表情がわからない。  リュミエールは、改まってヴェルデに尋ねた。 「──何故、君は私の元を去らない。そして何故、君は私の元へ嫁いだんだ?」  人の行動に興味を持つなど、初めてに等しかった。  幼い頃から、英才教育は施してくれる者はあっても、人の心理や厳密な関わり合いについて教えてくれる者など自分の近くにはいなかったからだ。 「…………」  ヴェルデは黙ったまま、しかしそのフードの下で、柔らかく笑った。  そして、自分が持ち歩いている籠の中から、ある物を取り出した。  緑色をした、一つのリンゴだった。  それを、リュミエールの傍にそっと置く。  リュミエールはそれを見て、ヴェルデを不思議そうに見上げた。 「……やはり、私を覚えていないのですね」  改めて聞くヴェルデの声は、透明な響きがあった。  ──その透明さを帯びたままに、ヴェルデはかつての思い出話をゆっくりと語り始めた。
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