0◆夫・リュミエール(六つの才)

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0◆夫・リュミエール(六つの才)

 リュミエール・ルッヒトは、名門貴族・ルッヒト家の跡取りとしてこの世に生を受けた。 「名門」というだけあって国内屈指の財力を持ち、それだけでも大抵の女たちは否応なしになびきそうなものだが、彼の魅力はそれだけではとどまらない。  リュミエールは齢ニ十五の若輩にして、いくつもの顔を持つ天才だった。  貴族の跡取りという肩書きだけではなく、複数の才知と魅力──それをいかんなく発揮する職というものを、一手に担っていたのである。  まず第一に学者──数学、哲学、天文学に通じ、あらゆる研究や著書を手掛ける、学者としての顔。  第二に絵画──自然主義者として多くの風景画、農民画を描き、人気を博す有名画家としての顔。  第三に詩才──形式にとらわれず、牧歌的で自由な心で田園詩(ヴィラネル)を紡ぐ、抒情(じょじょう)詩人としての顔。  第四に容姿──「容姿」は職に結び付かないが、多くの女たちを振り向かせ魅了する、端麗な面容の持ち主としての顔。  第五に音楽──鍵盤楽器を奏でる指さばきと作曲能力を兼ね備えた、音楽家としての顔。  第六に発明──日用の道具類の利便性を向上させるべく、アイデアを巡らせては製作に打ち込む発明家としての顔。  ──これらが、リュミエールという男の持つ六つの顔である。
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