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seek.00
人けのない深夜のオフィス街を足早に歩く一人の男がいた。しきりに背後を気にしながら脚をもつれさせる男の職業は、れっきとした警察官だ。普段は獲物を追う側である筈の彼は今、何者かに追われていた。その理由を一番よく知っているのは、彼自身だろう。
「クソッ、絶対に逃げ切って―――…」
悪役にも似た台詞が不意に男の口から零れ落ちる。あたかもその声に応えるかのように、男の目の前の路地から新たに一人、男が姿を現した。
カーゴパンツにミリタリージャケット、厳ついブーツに至るまで黒色を纏った男は、名を千鳥(ちどり)といった。逃げる男の行く手を塞ぐように立ちはだかった千鳥の唇が、ゆっくりと動く。
「俺たちから逃げられると思ってるのか?」
「ふざけるなっ! どうして俺に付きまとう!?」
「さあ? 理由なんて俺の知ったこっちゃない。俺たちは、依頼されただけだからな」
「依頼だと? 誰に依頼されたんだ!」
「おいおい。そんなの言える筈がないだろう?」
呆れたように肩を竦める千鳥の仕草とは対照的な男の声が人けのない街中に大きく響いた。
「とっ、とにかく俺は何もしていない! こんなところで殺されて堪るかッ!」
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