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「おーおー、俺は殺すなんて一言も言った覚えはなかったんだけどなぁ?」
息を呑む男に追い打ちをかけるように、揶揄うように千鳥は言う。
「だが、アンタにゃ殺される覚えがあるってこった」
「付き合ってられるか! 俺は逃げ切ってみせるぞ! こんなところでくたばって堪るかってんだよッ!!」
言うが早いか、颯爽と踵を返して走り出す男に、だが千鳥はターゲットが逃げたにもかかわらず緊張感の欠片もない声を出した。
「逃げても無駄だぞ? …って、もう居ねぇか…。篭目、補足できてるか?」
後半を独り言のように囁く千鳥の耳に装着されたイヤホーンから、篭目(かごめ)と呼ばれた男の声が流れ込んだ。その声は、千鳥と比べて随分と年若い。事実、篭目は千鳥を兄と呼ぶ。
「もちろんだよ千鳥兄(にぃ)。時雨(しぐれ)兄、そこの角を左に曲がってー」
「了解」
千鳥とは別の場所に居る仲間に向かって篭目が言えば、明瞭簡潔な言葉が短く返ってくる。兄などと篭目は呼んでいるが、千鳥と時雨、篭目の間に血縁関係はない。ただ、十七歳の篭目よりも年上の時雨と千鳥を呼び捨てにするのは憚られるというだけの事だった。
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