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嘲るような千鳥の声。前後を挟まれた男は当然逃げ場を失った。時雨と千鳥を交互に見ながら後退る男の背中が、すぐ横にあったカフェの格子扉に当たって大きな音が響く。
「何なんだよお前ら! いったい何者なんだ!!」
悲鳴にも似た男の声が、時雨と千鳥のマイクを通して篭目の耳にも届く。
それに応えたのは、時雨の静かな声音だった。
「それを聞いたら、お前は満足するのか?」
「何?」
ゆっくりと、時雨が男へと足を踏み出す。
「俺たちの正体を知ったら、お前は満足出来るのか?」
「な…何を言って…」
「心残りは少ない方がいいだろう?」
時雨の手がコートの胸元へと潜り込む。その動きに、何かを察したのか男は金属製の格子を鳴らしながら躰を横へと移動させる。だが、その先にはポケットに両手を突っ込んだままの千鳥が立っていた。
行き場を失くした男はその場にずるずるとしゃがみ込んだ。
「あ…あぁ…くっ、来るなッ」
「俺たちの名前を教えてやろう」
時雨の静かな声に応えるように、千鳥が口角を吊り上げる。その唇が、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「俺たちはシーク。アンタも、名前くらいは聞いたことがあるかもな」
「ッ…シークだと!?」
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