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驚愕に見開かれた男の目に、諦めが宿る。男には、その名がもたらす未来がはっきりと理解できた。否、男でなくともこのところ世間を騒がせている東洋人の”退魔”集団くらいは誰もが知っていた。但し、民衆に受け入れられているかどうかはまた別の話だが。
「これで心残りはないな?」
ただの確認だとでもいうような時雨の言葉。男の懇願の声を、サイレンサーで抑えられた銃声が掻き消した。
静寂が街を支配する。だが、それはほんのわずかの間の事だった。
頭を打ち抜かれた男から流れ出た赤い体液が、見る間に逆流していく。ゆらりと音もなく立ち上がった男の顔に、生気は見られなかった。
「ビンゴ♪」
思わず篭目の口から喜びに満ちた声がイヤホーンを通して千鳥と時雨の耳へと流れ込む。
カトリック教の祓魔師が儀礼を施した銃弾に撃ち抜かれてもなお動き続ける魔物。それが、彼等シークの狙いだった。
篭目の声など聞こえてもいないかのような、感情の籠らない時雨の視線が千鳥へと動く。その視線の先で、ゆっくりとポケットから手を抜き出した千鳥は肩を竦めてみせた。だが、千鳥の言葉が向けられた先は目の前の時雨ではなく、その場にはいない篭目へと向けられたものだ。
「おいおい篭目。たまには間違えてくれてもいいんだぜ?」
「嫌だなぁ千鳥兄。ボクが依頼を受け間違える筈がないでしょ」
モニターの前で篭目が得意げな顔をしている事は、現地にいる千鳥と時雨にも容易に想像できる事だった。
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