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d'abord
「だから、フェルディナン。私は自由に、羽ばたかなくてはならないの」
私が、黒鷺の姫であるが故に。
***
「承知致しました、『黒鷺姫』。それではこれより、城下でも目立たぬ衣装にお召換えを。そのマクラヌーアのドレスでは、世に王女殿下此処に在り、と知らしめるようなものでありますれば。純白のドレスは太陽のごとくきらめき、あまりもの眩さに民草も顔を上げられず、市井の生活にも差し障ることでしょう」
騎士爵然とした全身甲冑の男――フェルディナンは、至極淡々とまくしたてた。まるで、演劇の台本を読み上げるかのような台詞運びではあったが、齢四十を迎えた顔は険しく歪み、観客を楽しませる意思など欠片も感じさせなかった。
「我が守護騎士、フェルディナン」
「は」
「我が国最強と謳われる勇者、フェルディナン」
「は」
「鎧の妖精、フェルディナン」
「は」
どう呼び掛けても、恭しい態度を崩さないフェルディナンを見て。黒鷺姫は繊細なその身を抱くように腕を組み、頬を膨らませる。
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