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「もう一度繰り返しますが、我が父より最重要任務として、私の身辺警護を任されているはずの騎士、フェルディナン。なぜです? 嫁入り前の王女が、俗で雑多で危険極まりない下民の町へ、お忍びで遊びに行きたいなどと、戯言を口にしているのですよ」
「は、重々承知しております」
「なぜですっ」
まさに不動の岩壁の如き騎士の態度を受け。姫はついにむきになり、顔を赤くして声を荒げた。
「とめなさい。そこは引き止めるべきところでしょう。『そのようなわがままは許されませぬ、姫。貴方をお守りする騎士として承諾しかねます。あまり父君を困らせませぬよう』とか、何かそのような。貴方には、他に言うべき言葉があるはずでしょう。万が一、万が一にも私が、攫われたり、傷ものにされたり、殺したり殺されたりするかも知れないのに、貴方という人は――」
「恐れながら、黒鷺姫」
フェルディナンは言いながら、更に表敬のレベルを上げて片膝をついた。
一国の姫として厳しく躾けられた姫は、そのように敬意を表す家臣を無下にできないよう、深くその身に刻み込まれていた。ごく自然に言葉を止め、騎士の次の言を待つ。
「王命にございます。姫様自らが何かを望んだ折には、それがどのようなものであろうとも、全力を以て叶えるようにと」
「なんですって」
血の気が引く思いでよろめいた姫だったが、すかさず支えに入ったフェルディナンによって、卒倒を免れた。
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