第一話 やきもちチョコレート

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「んで、何か言うことはないのかよ?」 「え? 何が?」  僕は最初の一個の選定に夢中で、先生の話を半分上の空で聞いていた。 「どうして俺が、お前が他のやつからもらったチョコを食うのを許せないと思ったのか、その理由は聞かないのか?」 「あぁ、それならちゃんとわかってるから大丈夫だよ」  にっこりと微笑みながらそう言うと、先生は感極まったように目を見開いた。 「有栖川……」  何故か先生は僕にずいっと近寄ってきた。先生もチョコ食べるのかな? 「先生、チョコ一個ももらえなかったから、チョコもらえた僕にやきもちやいて意地悪したんでしょ?」 「なっ……」  僕はやっと最初に食べるチョコを決めた。ミルクチョコレートの上にビターチョコレートではっぱの模様が描かれているヤツだ。そっとその一つを箱からつまみ出し、口に運ぶ。歯を立てるとするりと割れて、中のとろりとしたガナッシュが口いっぱいに広がった。 「うぅ、しあわせ……」  先生が横で「なんで余計なことは気づくくせに、肝心なことはわからないんだっ!」とかぶつぶつ文句を言っていたが、全然気にならないほど僕は甘い幸せに浸っていた。 第一話 おしまい。
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