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意外にもこの作業はてこずり、放課後にまで予定がずれこんでしまった。ちらと腕時計に目を走らせる。急がねば。もう一つ残された、大事な約束の時間が迫っている。
待ち合わせ場所には人が滅多に来ることがなく、且つそれなりに雰囲気のよい特別教室棟の南側にある温室を選んだ。逸る気持ちを抑え、上履きから革靴に履き替えようと下駄箱を開けた。
「なんだ、これは……?」
下駄箱に見覚えのない包みが入っている。素っ気無いクラフト紙の包み。まさか、遅れて届いたバレンタインのチョコということはないだろう。取り出してみると非常に軽い。
悪い予感に軽い眩暈を覚えならがも、意を決してそっと包みを開く。
中に入っていたのは、絶対に今日だけはお目にかかりたくないと思っていた物だった。何かの間違いであってくれと一縷の望みをかけ中身や包み紙を確認するが、メッセージはおろか差出人の名すらどこにもない。そうなってくると、約束をした人物からのものである可能性が高い。
「あ、月城くんも今帰るところ?」
がっくりと肩を落としているところへ、唐突に声を掛けられた。ぎくりとして振り返ると、隣のクラスの有栖川がぱたぱたと駆け寄ってくる。いつも潤んだような大きな瞳が印象的だ。
「あ、ああ。とても大切な用事があったんだけど、もう済んだみたいだからね。帰ることにするよ」
「そっか、じゃあ僕も一緒していい?」
叫びだしたくなる衝動をぐっと堪え、微笑を浮かべる。スマートにスリークに、だ。
「いいよ、一緒に帰ろう」
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