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靴を履き替え、一緒に肩を並べて校門へと向かった。隣を歩く有栖川をちらりと見下ろすと、足を踏み出すたびにクセっ毛がふわふわと揺れている。いつもは好ましく思える光景も今日はこの暢気なほどの無邪気さが恨めしい。
校門にさしかかったところで、陸上部だろうか、揃いのジャージに身を包みジョギングをする女子の集団が通り過ぎていった。その内の一人に、追い抜きざまに「月城くん、クッキー、ありがとう」と声を掛けられる。先ほどお礼を配ったうちの誰かだったようだ。軽く手を挙げ応える。
「クッキー?」
不思議そうに有栖川が首を傾げた。
「あぁ、チョコのお返しにね」
「チョコって……あっ! 今日、ホワイトデーなんだ!」
「今さら、何言ってるの。まさか、知らなかったとは言わないよね」
つい、険のある言い方になってしまった。
「えっと、ごめん。僕、ちょっと五所川原先生のところに」
くるりと踵を返し駆け出そうとする腕を、思わず掴んでいた。
「五所川原先生にも、何か渡すの?」
「渡す? 違うよ、ちょっと聞きたいことがあるだけ」
有栖川はきょとんとしている。何かおかしい。てっきり僕は、有栖川は五所川原からチョコを受け取っていて、ホワイトデーのお返しを渡すことを思い出したのだと思ったが、そうではなさそうだ。それと同時に、有栖川が五所川原にチョコを渡していた可能性も、消えた。有栖川は『ちょっと聞きたいことがあるだけ』だと言っているのだから。
しかし、それならどうして今のタイミングで、五所川原の事を思い出したりするのだろう?
チョコやホワイトデーから連想して、聞きたくなることとは、一体?
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