第一話 やきもちチョコレート

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 そうと決まれば善は急げ。授業が始まるまでに残された時間はあとわずかだ。階段を駆け上り、廊下を突っ走り、化学準備室と書かれた扉の前に立った。  息を整えてからコンコンとノックをして、しばし返事を待ったが応答はない。 「五所川原先生、いますか……?」  そろりと扉を開けると、むわんとむせ返るようなタバコの匂いがお出迎えしてくれた。だけど、部屋の中はしんと静まり返っていて、旧型の冷蔵庫の低いモーター音だけがやけに大きく耳に響く。カーテンが引かれ電気もついていないので、薄暗くてちょっと不気味だ。この部屋の主である五所川原先生はまだ来ていないらしい。  僕はこれ幸いとばかりに、ごそごそとお腹から箱を取り出して、リボンを解き中を覗いてみた。 「うわぁ、やっぱりチョコだぁ」  手作りらしい少しいびつなトリュフが六つ、卵を大切に守る巣のようなふわふわの紙パッキンの上に並んでいる。チョコの甘い香りがふわんと漂い、鼻を刺激する。一個口に放り込みたくなる衝動を抑えて、僕はまずどこの奇特な人が僕なんかにチョコをくれたのか確認しようと、添えられているメッセージカードを手に取った。  その瞬間、背後でがらりと扉が開いた。
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