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いつの間にか僕は彼女に、
外の世界を照らし見ていた。
「君達はアウトサイダーなのか?」
少女はしばし思案すると重い口を開いた。
『そう、アウトサイダー』
再び沈黙が場を覆う。
本気なのかその真意が解らず彼女を見る。
黙したまま僕を見つめる目が、
なにかを待っている様で、
それが信実であると悟らせるのに充分だった。
「大丈夫。 僕は君を通報したりはしない」
少女は困った様に僕を見つめた。
『その心配はしてない。
心配はない。むしろ・・・ 』
少女の固い表情が僕を射ぬく。
先を促す様に僕は自然と呟いていた。
「むしろ・・・ 」
そんな僕を真っ直ぐ見据え彼女は答えた。
『むしろあなたの方が今は不法侵入者よ』
考えた事も無かった答えに言葉につまる。
僕が不法入国者?
都市に住む住民が、自分がある日突然、
不法入国者になる事を考えるだろうか?
僕は本当の意味で、
不法入国者の立場でものを考えてなかった。
なぜなら不法入国者にはなりえないからだ。
移住権を有した市民だから。
僕は不法入国者の立場で
人権を考えた事がなかった事に気付かされた。
人権を考えた事が無い訳では無いが、
厳密にはその人権も自分の立ち位置から見ていた。
「ちょっと待って・・・ 」
ちょっと急過ぎて頭の整理が追い付かない。
「つまり僕は異次元に迷い込んだ
子猫って事?」
『子猫じゃないと思う』
少女は真面目に僕を見つめそう言った。
『それに異次元でもない。
並行世界よ。
もしもで出来た世界。
IF《イフ》もしも・・・
もしもあの時、あの決断をしなければ。
もし歴史が変わっていたら。
もし・・・
もう1つの歴史の分岐点。
パラレルワールドとも言うわ』
並行世界。
パラレルワールド。
もしもの世界。
僕の常識が、
価値観が音をたてて崩れていくのを感じた。
まるでお伽の国の主人公になった気分だ。
もし僕が大人だったなら、
頭から信じないであろうワードが並んでいた。
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