世界の信実

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少女は僕を見つめたまま、 無言(むごん)で手にしたバイザーを僕の頭に(かぶ)せた。 途端(とたん)(あた)りの風景(ふうけい)一変(いっぺん)し、 僕の知る近代都市(きんだいとし)眼下(がんか)(ひろ)がっていた。 その展望(てんぼう)に見いっていると、 どこからか地鳴(じな)りに()轟音(ごうおん)(ひび)き始めた。 地震(じしん)なのか都市は()れだし、 土埃(つちぼこり)の中に(しず)()んでゆく。 僕は宙に浮かびその様子を(なが)めていた。 『禁断(きんだん)果実(かじつ)を口にした人類(じんるい)は、  神の怒りに()れ、都市は崩壊(ほうかい)したの』 彼女は世界の(かた)()であり、 その言葉は天地を切り()(やいば)だった。 土煙(つちけむり)の中に(しず)む都市を(なが)めながら、 少女の(かた)るような声は続く。 『地盤沈下(じばんちんか)(しず)んだ都市』 (ちゅう)(およ)(よう)にして都市ごと落下(らっか)していく人々。 地鳴りにかき消されながらも聞こえてきそうな 悲鳴(ひめい)阿鼻叫喚(あびきょうかん)の声、形相(ぎょうそう)。 その圧倒的(あっとうてき)時感描景(じかんびょうけい)を前に、 僕はたまらずバイザーを(はず)していた。 ハッーハッーハッー ()けた(あら)呼気(こき)が、 浮き輪のような湿(しめ)った音をたてていた。 それが自分のものだと気付(きづ)くのに、 しばしかかった。 少女は僕が落ち着くのを見計(みはか)らって、 話を続けた。 『この列車は当時地下鉄が走っていたルートと  同じ場所に作られているの。 元々(もともと)あった地下鉄は地盤沈下(じばんちんか)(しず)み、  今はずっと下に埋没(まいぼつ)している。  その本来あった地下鉄のルートと同じ場所に、  この鉄道は作られているの。  今では都市の上空を走る形になっているけど』 僕は網膜(もうまく)に焼き付いた残像(ざんぞう)咀嚼(そしゃく)する(よう)に、 (あらた)まって廃墟(はいきょ)()した都市を見下(みお)ろしていた。 「これが現実(げんじつ)」 信じられない現実を確かめるように(つぶや)く。 『心配しなくても  あなたのいる世界の現実ではない』 僕を気遣(きづか)う様に少女は言った。 その気遣(きづか)いに一言(ひとこと)かえすのがやっとだった。 「ありがとう」 それ以上の言葉が出て来なかった。 『そうじゃない。  これはずっと昔に起こった事。  あなたのいる世界とは関係(かんけい)ないの』 少女が何を言いたいのか(わか)らず、 その表情を(うかが)う。 『ソーヤの住む世界は、  この事実が起きなかった歴史、  世界なの。  擬似的(ぎじてき)(かぎ)られた空間に(つく)られた  並行世界(へいこうせかい)ではあるけど。  その(ため)、  そこの住民は都市から外には出られないの』
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