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そんなやり取りを中断させる様に少女が呟いた。
『もう着くよ』
見ると都市を外界と隔離する壁が近付いて来ていた。
不思議な事にそのずっと手前から見える筈の
エンペストタワーの姿はどこにもなかった。
とっその時、車内に唐突に緊急警報が鳴り響いた。
車内の窓が一斉に黒く染まる。
それはまるでモニターの電源を切った様な感じで。
シャッターを閉めた様に完全に光を遮断していた。
車内は再び地下鉄さながらの闇に閉ざされていた。
非常ランプが(EMERGENCY)の文字を浮かべていた。
(エマージェンシー)即ち緊急事態だ!
黒く塗りつぶされた窓が、ガラスの光沢を残していた。
「ノングレア処理されたパイレックス(電気を流す事で分子の配列を変えて光を遮断するもの)
の窓だ」
ナビが親切に説明してくれる。
その意味を咀嚼する前に少女が割って入った。
『それよりクロムバイザーを着けて!』
言われるままに装着した。
途端に陰惨な闇は消え失せ、
辺りは明るさを取り戻していた。
赤外線スコープさながらの赤みは多少あるものの、
ほぼ支障なく辺りが見渡せる。
【説明してる暇はない。今すぐ列車を降りるんだ】
再びナビの声が鼓膜の奥から聞こえる様に響いた。
バイザーから直接声が響いている。
どうやら通信回線に切り替えたようだ。
「降りるってここに?」
『シッ』
少女が僕の口を塞いだ。
【時間がない】
両サイドの車両から浮遊する燐光が迫っているのに気付く。
あれは?
【ストラムだ!
不法入国者を探している。時間が無いぞ!】
ストラム?コープの事か!?
こちらではストラムと言うらしい。
確かに迷っている暇はなさそうだ。
少女の手を掴み下車しようとするが、
少女は何故か固まっていた。
「どうした?」
少女は車窓を見つめ固まったままだ。
その視線を辿る。
そこには黒い波紋を広げ波打つ窓があった。
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