世界の信実

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今や忠実な番犬と化したストラムを見つめ、 嘆息(たんそく)をつく。 僕の世界でもあるコープ、こちらではストラム (統合監視システム)が、こんなに簡単にハッキングされる事に驚いていた。 ナビはそんな事を気にした素振りも無く作戦を話し続けた。 「これから緊急拘束シークエンスを起動する」 それを聞いた少女が僕の腕にしがみついた。 僕が唖然(あぜん)と口を開きかけたその時、 それは唐突(とうとつ)に起こった。 水中に投げ出された様に突然体が軽くなる。 足が床を離れ宙を漂っていた。 少女も同じ様に空中を漂い、 離れないよう僕の腕にしがみ付いていた。 (あわ)蛍光(けいこう)ブルーの光が2人を包んでいた。 泡沫(うたかた)燐光(りんこう)。 まるで宇宙に漂う水滴(すいてき)の中に包まれている様な、 そんな柔らかな浮遊感。 シャボン玉の中に閉じ込められた夢のように、 (はかな)く消えそうな、そんな心もとなさを感じた。 ナビがそんな夢の中を案内する様に解説を始めた。 「あくまで解りやすく抽象的(ちゅうしょうてき)に画像化しているだけだから、その中を泳いだりは出来ないよ」 ナビがそう説明している間に、 巨大な水滴(すいてき)は宙を漂い、 外壁に空いた穴に吸い寄せられる様に進んでいた。 『ちょっと待って!?』 少女は何か大事な事を思い出した様にそう叫んで、僕の腕を離した。 少女の華奢(きゃしゃ)な体が水球の中で遊泳する様に回転する。 少女は頭に飾られた髪止めのマウス型耳飾りに手をあて、操作する様に動かし始めた。 途端に回転する少女の体は空中で固定され止まる。 そのまま宙を漂い水球の外に出ていた。 ナビが珍しく厳しい語調(ごちょう)で警告する! 「時間が無い!戻るんだノワール」 少女一瞬こちらを振り返り僕を一瞥(いちべつ)してから、 ナビに言った。 『忘れ物!  すぐ戻るから』 そういい放つと一目散(いちもくさん)に駆け出していた。           ―15―
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